ボツリヌストキシン療法
顔面・眼瞼痙攣の症状と治療

ボツリヌストキシン療法とは、まぶたや顔の筋肉に微量のボツリヌス毒素を注射して、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)や顔面痙攣(がんめんけいれん)の症状を抑える治療法です。
対象となるのは、顔面や眼の周囲の筋肉がピクピクと痙攣し、顔が引きつったり、眼を閉じてしまったりする患者さんで、病名は「眼瞼痙攣(Meige症候群)」「片側顔面痙攣」です。ボツリヌス毒素は食中毒の原因としても知られていますが、微量であれば、全身に悪影響を及ぼすことなく、痙攣や収縮の原因となっている神経の働きを抑える効果があります。

眼瞼痙攣

症状

痙性斜頚や書痙など、持続的な筋の過緊張による異常運動を起こす疾患を総称して「ジストニア(dystonia)」といいます。眼瞼痙攣は局所性のジストニアに分類されます。眼瞼部の痙攣(両眼のピクピク)が始まり、眼瞼の刺激感、瞬目増加や羞明感などで眼科を受診することが多く、ドライアイとして治療されます。症状が進行すると、次第に開瞼困難となり、書字や歩行などの日常生活に不都合を生じます。

原因

一般的に、眼瞼痙攣の病因は脳の中心部にあると考えられますが、いろいろな検査を行っても異常所見は認められません。すなわち、明確な原因は不明ということです。患者さんには「原因不明だから、あまり思い悩まず、治療して治ることを考えましょう」と、ご説明しています。

顔面痙攣

症状

顔面痙攣は、主として中高年齢層に発症し、初期には眼輪筋のみに痙攣を認め、病状の進行とともに口角部の痙攣を伴うようになります。加齢にともなって徐々に進行し、連続する片側の顔面筋の痙攣を起こします。

原因

この疾患の病因の主たるものは、頭蓋内で顔面神経と脳の血管が接触することです。接触部分で異所性の異常興奮が生じ、片側顔面筋に不随意の収縮を起こします。

治療

治療には、脳神経外科的手術療法である顔面神経減圧術(microvascular decompression; Jannettaの手術)が著効します。ただし、この手術には顔面神経麻痺や聴力障害などの合併症のリスクがあること、顔面痙攣そのものが三叉神経痛などと異なり痛みや苦痛を伴わないこと、患者さんの年齢が高い場合が多いことから、根治手術を希望する患者さんは多くはありません。しかし、根治的治療を望む患者さんや若年の方に対しては、積極的に手術療法を勧めています。

ボツリヌス毒素の効能

ボツリヌス毒素はアセチルコリン作動性神経終末に作用し、アセチルコリンの放出を永久的に阻害します。簡単にいうと、注射した場所の運動神経と筋肉の間に作用して、そこの筋肉の動きを永久的に停めてしまうのです。顔面痙攣・眼瞼痙攣に対するボツリヌス療法は、極めて微量の毒素の局所注射であるので、体には全く無害です。
食品の中にもボツリヌス毒素を含んだものがあります。蜂蜜のラベルに「ハチミツは、生モノですから 1歳未満の乳児には与えないでください」と書かれているのをご存じでしょうか。蜂蜜の中には、ボツリヌスの芽胞が混入しています。体力の弱った乳児に蜂蜜を与えると、乳児ボツリヌス症を発症することがまれにあります。

治療の有効期間

治療効果は、通常1~3日以内にあらわれ、1~2週間後にピークに達します。有効期間はおよそ2~4カ月です。すでに30年ほどの治療経験のある欧米の報告においても、有効期間に変化はなく作用の減弱は見られていません。しかし1回の注射で治ると誤解する患者さんもおられます。注射で働きがなくなった神経は、また芽を出し、徐々に再発します。そのため、2~4カ月に1回の治療が必要になります。現在のところ、副作用の報告はありません。